学会・セミナー 記録集

講演2|切除不能進行・再発大腸癌におけるがんゲノムプロファイリング検査の“実践”

演者:市川 度 先生(昭和医科大学藤が丘病院 腫瘍内科・緩和医療科)

私からは、より実臨床での “実践” という視点でお話をさせていただきます。

市川 度 先生

昭和医科大学藤が丘病院におけるCGP検査

私のおります昭和医科大学藤が丘病院は、2022年6月よりがんゲノム医療連携病院となりました。そこからの約2年半で、200例ほどのがんゲノムプロファイリング検査(CGP検査)を実施しています。

Guardant360 CDxがん遺伝子パネル(以下Guardant360 CDx)は2023年10月より導入し、2025年2月までの間に64例に使用しています。2024年4月までの最初の20例(うち大腸がんは8例)の結果をまとめると、20例中、リキッドCGP検査の結果「推奨治療あり」が6例(30%)、その後治療に移行したのは4例(20%)でした。
大腸がんでは「推奨治療あり」が4例(50%)、治療に移行したのは3例(38%)という結果でし12)この数字は、私の約40年の臨床経験の勘に基づき治療につながりそうな患者さんだけに実施するという、かなりのセレクションバイアスをかけたものではありますが、臨床試験とは違って実臨床であれば、これだけ高い割合になる可能性があり、十分に活用できるということかと思います。

“今の全体” が分かるリキッドCGP

⚫︎空間的・時間的な2種類のがん不均一性(Heterogeneity)

先ほど中村先生からもお話があったように、がんの不均一性(Heterogeneity)は空間的なものと、時間的なものの2つに分かれます(図5)。

空間的なHeterogeneityは、①原発巣内、②原発巣-転移巣間、③転移巣-転移巣間の3つ、時間的なHeterogeneityは、①初発時(手術時)-再発時、②治療による変化の2つがあります。
今の保険制度上CGP検査を実施できる一次治療以降のHeterogeneityを考えると、時間的なHeterogeneityを克服するには、再生検による組織CGPか血液CGPしかなく、また空間的なHeterogeneityを克服するには血液CGPしかありません。
つまり “今の全体” が分かる血液のCGPが理想的である、と私は考えています。現状、保険を使って検査ができるのは1回だけです。

次の治療につながるチャンスをより高くしたい、と考えた時に、Guardant360 CDxは治療に到達するに十分な74遺伝子の解析と、検体中にわずか5ngのセルフリーDNAしか含まれていなかった場合でも多くの検体で遺伝子異常を報告する高い解析性能を持ちますので、私は積極的に使用するようにしています。

2種類のHeterogeneity

リキッドCGPを活用するためのポイント:腫瘍量はALPとLDHを指標に

実際にリキッドCGPを使用するにあたり、中村先生が監修された3つのポイントは、「病態」、「腫瘍量」、「転移部位」とのことでした(図4)。
このうち「病態」と「転移部位」はシンプルなメッセージで非常に分かりやすいと思います。
ただ、「腫瘍量」については少しイメージしづらいかもしれません。そのヒントになるのが、アルカリフォスファターゼ(ALP)とLDHです。

まずALPについてですが、Köhne’s indexが参考になります(図6)。これはALPの他にPSや転移個数、白血球数などから予後を予測するチャー13)で、AOIのグループで作られたものです。
GERCOR studyの結果がもっとシンプルで、de Gramont先生のグループが提唱したPSとLDHだけの指標があります(図714)

2002年と2011年の論文なので若い先生はあまりご存じないかもしれませんが、ALPとLDHは腫瘍量を反映していると以前から言われており、実臨床では参考になると思います。

Kohne's indexLDHとPSを指標とした予後予測

⚫︎切除不能・進行再発大腸がんにおけるリキッドCGPのニーズ

切除不能・進行再発大腸がんにおけるリキッドCGPのニーズは、大きく分けるとサイエンスからのニーズと、患者・家族・医療従事者のニーズの2つあると考えます。
前者は“今の全体”のバイオロジーを理解することであり、治療がなぜ効いたのか/なぜ効かなくなったのか?ということの答えを得ることにあります。
後者は、やはり治療につなげることだろうと思います。そのためには、希少フラクションを見つけることと、“今の全体”を知ることによって抗EGFR抗体薬のリチャレンジやNeoRASアプローチなどの適切な治療を検討する、ということが現時点での使いどころであろうと考えています。

・希少フラクションを見つけるためのヒントは一次治療のPFS
希少フラクションを見つけるためのヒントは、PARADIGM試験のPFSにあると考えます。原発巣占居部位が左側のパニツムマブ群の症例で、MSSかつRAS/BRAF野生型患者さんのPFS中央値が13.6ヵ月であったのに対し、MSI-H、RAS/BRAF変異に加えて希少フラクション(EGFRHER2RETNTRKALK)を含む患者さんのPFS中央値は9.3ヵ月とやや短い傾向にあったことが報告されていま15)私の個人的な感覚の話になってしまいますが、抗EGFR抗体薬による一次治療の効果が一旦は認められても6ヵ月から12ヵ月程度でPDになってしまう患者さんの中には、上述のような希少フラクションを持つ方が一定の割合で含まれていると予想できます。
実際に、一次治療が8ヵ月でPDになった患者さんでRET fusionが見つかったケースを経験しています。一次治療のPFSが少し短いと思う場合には、リキッドCGPを積極的に検討することで適切な治療につながる可能性が高まると考えています。
・“今の全体”を知ることで抗EGFR抗体薬リチャレンジやNeoRASアプローチも検討可能に
抗EGFR抗体薬リチャレンジについては中村先生がお話しになりましたので割愛しますが、NeoRASという、RAS変異型と判定されていた腫瘍がRAS野生型に変わるという現象の報告がいま話題になっていますが、まだ研究が始まったばかりで、本邦ではJACCRO CC-17 RASMEX studyやGOZILA studyでの解析が進められています。RASMEX studyでは、組織検査でRAS変異型と診断され、一次/二次治療奏効後に不応となった241例のうち55例(22.8%)がOncoBEAM検査でRAS野生型(NeoRAS)と判定されまし16)
GOZILA sudyでは同様に約20%がリキッドCGPでNeoRASと判定されまし17)
いずれもその後の抗EGFR抗体薬の治療につながっており、RASMEX studyでのNeoRASアプローチの治療成績は現在論文に投稿中です。

大腸がん患者のPatient Journey:“今の全体” を知ることの臨床的意義

本日の内容を、大腸がん患者さんのPatient Journey上にまとめました(図8)。
切除不能・進行再発大腸がんの治療においては、組織検体を使って一次治療前にMMR機能欠損、RAS変異、BRAF V600E変異、HER2を調べることは、大腸癌治療ガイドラインにも記載されており、いまや必須となっています。
その後CGPを行う際に、リキッドであれば “今の全体”を知ることができ、RAS変異に関しては抗EGFR抗体のリチャレンジやNeoRASアプローチなど適する治療を選択することも可能になります。
また、BRAF V600E変異やHER2陽性といった抗EGFR抗体薬に抵抗性を示すものを確認することによって抗EGFR抗体薬の適切な使用やALKなどのGene fusionを確認することで希少フラクションが見つかり、適した治療につながる可能性があります。

“今の全体”を知ることができ、治療に到達するに十分な数の遺伝子を高性能で解析可能なGuardant360 CDxは、患者さん・ご家族、そして我々医療従事者の拠り所になるものと、私は確信しております。

大腸がん患者のPatient Journey:今の全体を知ることの臨床的意義

  • 12)市川眞琴 他, JSCO 2024; Abst# P79-6
  • 13)Köhne CH, et al. Ann Oncol 2002;13(2):308-317.[PMID: 11886010]
  • 14)Chibaudel B, et al. Oncologist 2011;16(9):1228-1238.[PMID: 21859820]
  • 15)Shitara K, et al. Nat Med 2024;30(3):730-739.[PMID: 38347302]
  • 16)Nishina S, et al. ASCO-GI 2023;Abst# SO-30
  • 17)Osumi H, et al. Nat Commun 2024;15(1): 5885.[PMID: 39003289]

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